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特定建築物定期調査は、建物の安全性を確認するために欠かせない定期点検制度です。
建物の所有者・管理者の中には、これから初めて特定建築物定期調査を実施するという人もいるのではないでしょうか。
今回は特定建築物定期調査をテーマに、点検調査の対象建物や検査内容、免除制度や罰則規定を紹介します。調査費用を抑える方法も記載するので、ぜひ参考にしてみてください。
特定建築物定期調査とは、建築基準法第12条で定められた定期調査・報告制度です。
対象となる建築物の所有者や管理者は、建物の敷地・構造・設備を調査し、その内容を特定行政庁へ報告する義務があります。
特定建築物の定期調査・検査報告制度は、かつて建築物の老朽化や設備不備などによって、多くの事故が発生したことから、利用者の安全を守ることを目的に実施されることになりました。
特定建築物定期調査は、建築物がつねに安全に利用できる状態であると確認する大切な制度です。
特定建築物定期調査と似た制度に、「特殊建築物定期調査」があります。両者の大きな違いは「対象となる建築物」です。
特殊建築物とは、建築基準法第2条で定められた建物を指します。具体的には、以下のような建築物・施設です。
学校(専修学校及び各種学校を含む)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、 倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。
特殊建築物は一般の人がよく使用する建物もあれば、と畜場や汚物処理場など、特定の人のみ利用する施設も対象に入っています。
一方で、特定建築物とは、上記の特殊建築物を含むさまざまな建物の中から、国や特定行政庁(各都道府県)が「特定建築」と定めた建物を指します。
つまり、特殊建築物よりも特定建築物の方が対象が狭くなっているのです。
特定建築物定期調査も特殊建築物定期調査も、それぞれ細かな調査項目が決まっています。建物や施設の所有者・管理者は、調査と報告の義務を怠らないようにしましょう。
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具体的にどのような建物が特定建築物定期調査の対象なのか、見ていきましょう。
まず、国が一律で定めた対象建築物の基準は以下の通りです。
建物の用途 | 適用条件 |
病院、有床診療所、ホテル、旅館、就寝用福祉施設(老人ホーム等)など | ・地階もしくは3階以上の階 ・2階の床面積が300㎡以上(病院、有床診療所は、2階部分に患者の収容施設があるものに限る) |
劇場、映画館、演芸場、観覧場、集会場、公会堂など | ・地階もしくは3階以上の階 ・客席の床面積が200㎡以上 ・主階が1階にない劇場、映画館、演芸場 |
百貨店、展示場、マーケット、公衆浴場、待合、料理店、キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー、物品販売業を営む店舗など | ・地階もしくは3階以上の階 ・床面積が3,000㎡以上 ・2階の床面積が500㎡以上 |
体育館、博物館、美術館、図書館、水泳場、スポーツ練習場、ボウリング場など (※学校に附属するものを除く) |
・3階以上の階 ・床面積が2,000㎡以上 |
次に、特定行政庁(各都道府県)が独自の基準で定めた対象建物があります。
多くの場合、上記の国が定めた対象建築物にプラスする形で指定されます。
例えば、国の基準では学校に附属する体育館は特定建築物の対象外です。しかし、東京都は学校の体育館であっても、床面積が2,000㎡以上であれば調査の対象に定めています。
こういった特定行政庁が指定する基準は各都道府県ごとに異なります。東京都では対象の建物が、神奈川県では対象外だったということも少なくありません。必ず所有する建築物が建っている都道府県の基準を確認しましょう。
ここからは、特定建築物定期調査の検査内容を解説します。
特定建築物定期調査の検査項目は以下の5つです。
それぞれ見ていきましょう。
敷地・地盤の調査では、地盤沈下による陥没がないか、また塀や擁壁にひび割れが起こっていないかなど調べます。具体的には以下の項目を調査します。
調査項目 | 調査内容 |
地盤 | ・地盤沈下が起きていないか ・地盤沈下による傾斜や凸凹が発生していないか ・上記の発生で安全性が損なわれていないか |
排水状況 | ・敷地内の雨水や汚水が下水管や下水溝・から適切に排出されているか ・適切な排水によって安全性や衛生が保たれているか |
敷地の通路 | ・通路の幅が1.5m以上に保たれているか ・通路内に障害物がないか |
堀と擁壁 | ・擁壁の損傷や土砂の流出などの問題が発生していないか ・堀が建築基準法施行令第61条と第62条で定められた安全基準を満たしているか |
敷地・地盤では、目視によって調査を行います。
建築物の外部調査では、建築物の基礎や外壁部分にひび割れや沈下、建材の劣化や損傷がないか調査します。
具体的には、以下の項目を調べます。
調査項目 | 調査内容 |
基礎・土台(木造) | ・基礎部分にひび割れや欠損、劣化がないか
・腐食やシロアリ等の害虫被害が発生していないか ・金物に著しいサビが発生していないか |
防火対策 | ・建築基準法で定められた防火構造に適合しているか |
躯体の劣化・破損状況 | 木造:外壁の腐食や害虫被害がないか 鉄骨造:鉄骨にサビや腐食が発生していないか RC造:ひび割れや鉄筋のむき出しがないか れんが等:ズレや損傷がないか |
外壁の劣化・破損状況 | ・外装仕上げ材の状態に危険性がないか(剥離・ひび割れなど) |
窓・サッシ | ・サッシに腐食がないか ・開け閉めに問題がないか ・飛散防止フィルムが貼られているか |
その他 | ・外壁に広告や室外機が設置されている場合、安全に固定されているか |
建築物の外部調査は、目視を中心に行われますが、テストハンマーによる打診調査が必要な場合もあります。近年ではドローンを使用した赤外線調査も行われています。
屋上・屋根の調査では、屋上や屋根部分にひび割れや反りかえり、剥離などが起こっていないか調査します。屋上に高架水槽が設置されている場合、排水回りの調査も行われます。
具体的な内容を以下にまとめました。
調査項目 | 調査内容 |
屋上部分 | ・屋上にひび割れや反りかえり、損傷による雑草の発生がないか |
屋上回りの状態 | ・屋上の立ち回り部分が著しく劣化・破損していないか ・排水口が破損していないか |
防火対策 | ・屋根部分が建築基準法で定められた防火構造に適合しているか |
屋根の状態 | ・屋根材が劣化、損傷していないか |
その他 | ・冷却塔や広告塔が安全に設置されているか |
屋上・屋根の調査では、目視のほか、場合によってテストハンマーによる打診調査が行われます。
関連記事:ドローンによる屋根点検のメリット・デメリット!費用相場や点検の流れについても解説
建築物の内部調査では、天井や床、照明器具、換気設備の状態を検査します。内部の劣化・損傷具合を調べるほかに、火災時に防火性能や防火設備が正しく効果を発揮するという点も調査します。
具体的な内容は以下の通りです。
調査項目 | 調査内容 |
防火区画 | ・建築基準法で定められた防火区画が適法状態にあるか |
壁面の状態 | ・木造やRC造などすべての構造の建物で躯体部分に劣化や破損、腐食がないか |
界壁・間仕切壁・隔壁 | ・リフォームなどを行った場合、建築基準法で定められた規定が守られているか |
防火構造 | ・建物の壁が防火区画における耐火構造に適合しているか ・建物の床が防火区画における耐火構造に適合しているか |
天井の状態 | ・吊り天井を含む天井で落下や脱落の危険性がないか |
防火設備の状態 | ・防火扉や防火シャッターなどの防火設備が適切に配置されているか ・防火扉の閉鎖の作動や閉鎖時間が適切か |
照明器具の状態 | ・照明器具に落下の恐れがある腐食、劣化、損傷がないか ・照明器具が防火扉の障害になっていないか |
採光・換気の状態 | ・建築基準法で定められた採光・換気の規定が守られているか |
アスベストの使用状況 | ・アスベストが使用されている建築物は、資材の状況を調べ適切な対応をする |
建築物の内部調査は、目視やテストハンマーによる打診で行います。見えにくい部分の調査には双眼鏡が用いられることもあります。
避難施設の調査では、災害時の避難経路や非常口を調べます。
調査対象となる避難施設を以下にまとめました。
上記の避難設備が安全に設置されているか、著しい劣化や破損がないか調査します。避難時に正常に動作するかも重要な確認項目です。また、燃えやすいものが放置されていないか、避難時に邪魔になる障害物がないかも調べます。
調査は主に目視で行われます。
特定建築物定期調査を行う際、以下の点に注意する必要があります。
それぞれ細かく見ていきましょう。
特定建築物定期調査の時期について、国は「おおむね6ヶ月~3年の間隔をおいて、特定行政庁が定める時期」と示しています。そのため、定期調査の具体的な時期や頻度は各都道府県により異なります。
また、建物の用途や規模によっても変わるため、建物を管轄する特定行政庁に確認する必要があります。
一例として東京都の場合、「劇場、映画館、演芸場」は11月1日から翌年の1月31日まで毎年報告するよう義務づけられています。
特定建築物定期調査は、誰でもできるわけではありません。以下のいずれかに該当する有資格者が行う必要があります。
上記の資格を持つ建築物の所有者・管理者は少ないため、定期調査を行う場合、専門の業者に外注するケースがほとんどです。
特定建築物定期調査には、初回免除制度があります。
例えば東京都では、建物を新築・改装した場合、その翌年の調査が「初回」として免除されます。3年ごとの調査・報告が義務となっている建物だと、工事が完了した翌年の調査が初回免除となり、その3年後(建物完成から4年後)が初めての特定建築物定期調査となるわけです。
この初回免除の条件は特定行政庁ごとに異なるので、各都道府県のホームページをよく確認しておきましょう。
建築基準法で定められた義務である特定建築物定期調査は、怠ると罰則が科せられます。
特定建築物定期調査の対象年度になると、特定行政庁から通知書が届きます。もしこれを無視し定められた調査・報告を怠ったり、虚偽の報告を行ったりした場合、建築基準法第100条および101条に則って、100万円以下の罰金を払わなければいけません。
また、調査・報告義務を怠って建物内で事故や災害が起こった場合、刑法や民法によって罰せられます。悪質なケースだと執行猶予なしで実刑判決が下されることも少なくありません。
特定建築物定期調査は、建物の安全性に直結する大切な調査制度です。必ず実施するようにしましょう。
特定建築物定期調査の費用は、点検を行う建物の延べ床面積や用途によって異なります。また、依頼する業者によってもまちまちです。
専門業者の多くは、延べ床面積に応じた料金設定を行っています。大体の料金相場を以下にまとめました。
延床面積 | 特定建築物定期調査 | 建築設備定期調査 | ||
共同住宅 | その他 | 共同住宅 | その他 | |
~1,000㎡ | 約4~5万円 | 約3~8万円 | 約3~4万円 | 約4~5万円 |
1,000~2,000㎡ | 約3~6.5万円 | 約3.5~8.5万円 | 約5万円前後 | 約5~7万円 |
2,000~3,000㎡ | 約3.5~7.5万円 | 約4~10万円 | 約5万円前後 | 約6~9万円 |
上記にプラスして、別途防火設備調査や昇降機設備の調査費用がかかります。また、人件費や報告書の作成費用、申請手続きの代行料金なども請求されます。
特定建築物定期調査の費用を抑えるには、複数の専門業者で相見積もりを取ったり、調査の一部にドローンを活用したりする方法がおすすめです。
建築基準法の改正により、2022年4月1日から特定建築物定期調査において、ドローンによる赤外線調査が認められるようになりました。
国土交通省|定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査 ガイドライン
具体的には、建築物の外部調査、内部調査、屋上・屋根の調査で行われます。これまでテストハンマーで行っていた打診調査の代替として、ドローンの赤外線調査を利用するという形です。
テストハンマーでの調査は、足場の設置費用や人件費がかかり、料金相場は1,000㎡で約100万円といわれることも。しかしドローンの場合、調査費用は1,000㎡あたり30万円と、大幅に抑えることが可能です。
特定建築物定期調査にドローンを使用する専門業者も増えているので、少しでも調査費用を抑えたい人はぜひ検討してみましょう。
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特定建築物定期調査の大まかな流れを見ていきましょう。
特定建築物定期調査の場合、報告書は郵送できないケースがほとんどです。直接各特定行政庁の窓口に持参しましょう。
定期調査には報告期限が定められています。複数の建物を所有している場合、それぞれの報告期限をきちんと把握しておきましょう。
特定建築物定期調査は建築基準法で定められた重要な調査・報告制度です。建物を利用する人の安全にも直結するため、対象年度になったら必ず実施しなければいけません。報告期限ぎりぎりであせらないためにも、早めの準備が大切です。
特定建築物定期調査は、建物を所有している限り行う必要があります。少しでも検査費用を抑えたい人は、検査方法にドローンを活用するのもおすすめです。
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